イベント業には「仮押え」なる便利かつ面倒なスケジュール交渉システムが存在します。
今回はその言葉の使い方、解釈などについて紹介していきたいと思います。
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そう、「仮押え」とは簡単に言うと予約の一歩手前のことです。
スケジュールを確保したことをこの業界では「押える」と呼んだりしています。



仮押えが通用する対象

仮押えは主に二つのものに使われます。

・会場スケジュール交渉
・キャスティング
(タレントやアーティスト、広義には人材のスケジュール交渉全般)

この「仮押え」「決定」は似て非なるものなので、使い方を間違えるとキャンセル費が発生してとても面倒なことになります。
このブログを良く読んで、言葉の使い方には十分注意しましょう。



「仮押え」と「決定」

ではこの二つはどう違うのでしょう。
用例から考えてみたいと思います。


「仮押え」

仮押えは私はあなたのスケジュールを確保する意思がありますが、関係各社の意思統一ができるまで待って下さい。という意味です。
あくまで「仮」なので、複数の候補があるので意思統一できるまでは他の交渉をしないで下さい。という状態です。
当然とりあえず押えている状態なので確度は低めですね。

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仮押えは、複数を候補にあげて選べる、交渉する側が有利なシステムなのです。
人気の高いタレントさんのキャスティングを行う時には、交渉先の方が強い立場にあるので、仮押さを行うということはあまり行われません。

ゲームステータス風にまとめると、

状態:仮押え
費用:発生なし
方法:電話や申込みフォーム
他社交渉:期限付きで一時ストップ
期限:1週間~2週間程度
意思LV:10~70(担当者レベルで使いたい)


という状態です。

仮押え期限が来たら、交渉先から「どうしますか?」という恐怖の電話やメールが来てしまいます。
催促の電話が来る前に、仮押え期限までに必ず返答の連絡をしましょう。

引き合い(他社からの問い合わせ)がなければ期限の延長をして頂けるのですが、引き合いが入っている場合は、「今週中までに結論をお願いします。」などと言われます。



「決定」

それに対して決定は、

状態:決定
費用:キャンセル費の対象 前払いする場合もあり
方法:電話や申込書提出
他社交渉:完全ストップ
期限:イベント実施まで
意思LV:100(全員が使うことを確信)


という状態です。
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そう。
「決定」は世間で言う予約とほぼ同じ意味です。
要は「仮押え」とは費用が発生しない状態で複数候補のスケジュールを確保し、一番良いものを選ぶための小狡い手法なんです。



仮押えと決定のあいだ「ほぼ決」

ここからは交渉の領域に入ってきますが、スケジュール交渉には意思の強さや状況に応じた不思議な駆け引きが存在します。
それを表したかのような微妙な言葉が存在します。

決定ではないけど、ほぼ決 (ほぼ決定)。
限りなく決定に近い確度の高い状態を指してこう言います。
ステータスで表すと、

状態:ほぼ決
費用:発生なし
方法:電話で直接交渉
他社交渉:こちらの結論が出るまでストップ
期限:先方から決められた期限ではなく次回の会議までなど
意思LV:70~95(ほぼ全員が使うつもり)


つまり、条件は合致していてほぼ決定と言っていいぐらいの確度なんだけど、ごく一部の面倒な人がネックになっていてもしかしたらダメになるかもしれない。という状態です。

ただ実際はこのごく一部の人がキーマンだったりするので、そこそこひっくり返る可能性があります。テレビの「CMの後は衝撃の結末が!」ぐらいの期待値かもしれません。

交渉先に対して、うちの案件を優先して下さい!でもダメでもキャンセル費とかは払うつもりないので迷惑にならないように他社案件も完全に断らないで下さい。というニュアンスと言ったらいいのでしょうか。

とにかく、意志が強いということを強調しただけでまったく通常の仮押えと状態は変わりません。
きっと交渉先も確度の低い仮押えの相談ばかりでうんざりしているでしょう。


それに対して結構効果があるのが、


決定優先からの決定から交渉
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決定優先とは文字通り、決定の意思がある方が先に押えるという交渉方法です。
決定からの交渉は仮押えとは次元が違います。
なんてったって、キャンセル費を払う覚悟があるぐらいの気持ちです、という意思表示。
ステータスで言いますと、

状態:決定優先
費用:申し込んだ段階で万が一バラしになってもキャンセル費を払う覚悟あり
方法:電話で直接交渉
他社交渉:他社が先に交渉していても優先権を繰り上げてもらう
期限:他社に期限を押し付ける
意思LV:100(全員が使うことを確信)


まさに力技ですね。
他が仮押えしているところに割り込みにいく交渉術です。
ぶっちゃけた表現だと、「ダラダラ待たせる他社の仮押えなんかより、うちに決めてくれたら確実に押さえますよ」という意味です。

人気の高いタレントさんへの交渉はほぼこのスタイルです。
他の候補と同時並行でというのはやはり失礼ですからね。
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決定優先交渉のやり方

スケジュールを確認した時に他に仮押さえが入っています、と言われた時に、「決定優先にできませんか?」と相談します。
いち早く決定の意思決定をしている場合は、「うちは決定からでお願いします。」と伝えるとさらに話が早いです。

交渉先がどっちでも決まってくれた方と組みたいと思っている場合、「じゃあ決定優先でいいか、先に押えている会社に聞いてみる」と応えたりします。

成功すれば、「先方はすぐに判断できないみたいなので、決定優先にします。」となるわけです。
意思決定をしている場合はそのまま「御社にスケジュールをお渡しします。」となります。

完全に早いもの勝ちというスタンスの場合はだいたいこう言われます。
「うちは申込みのタイミング優先なので、キャンセル待ちになります。前の仮押えが外れたらご連絡します。」となるわけです。

決定優先交渉は逆に仕掛けられたりもします。
ダラダラと決定の意思もないのに押えていると迷惑になりますので、必要ない仮押えはすぐにバラしましょう。



スケジュール押えの交渉過程

交渉の過程を順番にまとめたいと思います。

空きの場合
・スケジュール確認→空き→仮押え→複数の仮押え済み候補から選定→クライアント含めた意思確認→決定連絡→イベント実施→支払い


空いていない場合
・スケジュール確認→他社決定→終了

・スケジュール確認→他社仮押え→2番手押え→キャンセル待ち→1番手仮押え→複数の仮押え済み候補から選定→クライアント含めた意思確認→決定連絡→イベント実施→支払い

・スケジュール確認→他社仮押え→決定優先交渉→クライアント含めた意思確認→他社キャンセル→決定連絡→イベント実施→支払い


という過程を経て決定に至ります。



決定という言葉の重み

この決定という言葉を軽く扱いますと、「決定と言ったので他社の仕事を断ったのにバラされたら困る」とキャンセル費を請求されるケースもあります。
スケジュール交渉ではこの決定という言葉は慎重に使うように気をつけて下さい。

バラし忘れて、長らく仮押えのままだったりすると相手は決定と認識する場合もあります。
その際はすごくモメますのでご注意を。

新人の頃、忙殺されていて某事務所さんのキャスティングでバラし忘れをしてしまい、1ヶ月前に事務所から「決定でいいんですよね」と言われて青ざめたことがあります。
菓子折り持って速攻で謝りに行きました。
その節は大変ご迷惑をおかけしました。

仮押えをしたものは案外忘れてしまうことがありますので、よくスケジュール交渉をされる方は仮押えノート的なものを作って整理されることをおすすめします。
僕の二の舞には絶対にならないで下さい。
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この記事に書いてあることを気をつけてスケジュール交渉にあたればきっと円滑な交渉ができることでしょう。
今度交渉される側のお話も聞いてみたいですね。

タレントさん、アーティストさんへの出演交渉はまた独特のノウハウがありますので、また別の機会にまとめたいと思います。